「お前が泣いたところなど、そういえば見たことが無いな。
可愛げがないぞ。」
腰に手を当てて、不満げに眉を寄せて金髪の吸血鬼が言う。
だのに目は笑っているところが腹立たしい。
他人をおちょくり楽しむことしか考えていないかのような態度は、いつも承太郎の癪に障った。
「いらねぇだろ、そんなもん。
何も悲しいことなんざないのに、泣けると思ってんのか?」
学帽を目深に被り直し、DIOを視界から消す。
この吸血鬼とは本当に馬が合わない、顔を合わせては喧嘩三昧だ。
それなのに母は「仲良しね」と言って、笑って済ます。
殺しあう仲だったことを考えれば、確かに口喧嘩で済むのはある意味進歩かもしれない。
……そんなわけねーだろ。
承太郎は即座にその考えを否定した。
学帽のつばに手をかけたままの承太郎を、DIOが覗き込む。
相変わらずその端正な顔はにやにやとした笑みを貼り付けたままだ。
「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ。
それに承太郎、悲しい時だけでなく、涙が出るときはあるのだぞ。
例えばセッ 」
「お前はもう黙ってろ、二度とその口利くんじゃねぇ。」
空条家に転がり込んできてから、DIOの口から下らない話が飛び出さなかったことはない。
下品な言葉が飛び出すのを遮った承太郎は、大きく溜息をつく。
――会話が好きなわけでもないだろうに。
承太郎の心、DIOは知らず。
承太郎を真正面から見つめなおし、吸血鬼は心底つまらなさそうに呟いた。
「お前は本当に初心だな。
いい加減、慣れても 」
スタープラチナで殴って黙らせた。